2011年5月29日日曜日

口笛吹いてA / Whistling Tune



口笛吹いてA / Whistling Tune

< A Whistling Tune /口笛吹いて>は<スキヤキ/上を向いて歩こう>を思わせるような希望が聴こえてくる歌。アメリカはますます元気で、日本は高度成長期の昭和。「夢」が満ちていた時代で、自分はガンベルトに憧れるこどもだった。スクリーンに登場したエルヴィス・プレスリーもカウボーイ魂を持ったヒーローだった。

それにしても歌う姿がカッコいいと思ったものだ。女性にやさしく、悪には強い。そのカッコよさは、頭巾をとった快傑黒頭巾のようだった。「♪2丁拳銃~」・・・そうだ。僕は松島とも子が歌う<快傑黒頭巾の歌>を聴くといまでも涙ぐんでしまうのだ。

この歌を耳にした頃、僕の頭の中はキラキラしていた。その玉手箱のなかには<悲しき60才>とか、<上を向いて歩こう><見上げてごらん、夜の星を>も入っていた。その大半は商店街に響く音楽と通学路で見かけた映画館の週代わり3本立てを告知するポスターが侵入経路だった。エルヴィス・プレスリーの存在を知ったのも、風呂屋の前にあった新聞社の記事だった。通学路は最大のニュース番組のようだった。

商店街のスピーカーから流れてくる曲は、美空ひばりや坂本九が多く、無意識に玉手箱に侵入したのは、美しいメロディラインと軽快なリズム感がひとつにまとまったポップなバラードだったが、そのどれもがアメリカンポップスの洗礼を受けて出来た曲であることは明らかだ。

< A Whistling Tune /口笛吹いて>は、1962年8 月29 日に全米で公開されたフィル・カールソン監督のエルヴィス1 0作目目の主演映画『恋のKOパンチ』の挿入歌。ボクシングジムの利権をめぐるアクション・ストーリーで何度もリメイクされている作品。スパーリング・ボクサーからプロになり、勝ち続けるボクサーを演じる。エルヴィスが戦って得るのは恋する人の優しい心。

当初はエルヴィスらしさを強調した「リングでキッス」がタイトルで、レコードもすべて「リングでキッス」だったが、映画公開直前に『恋のKOパンチ』に改題された。撮影にあたってKOパンチをコーチしたのは、世界ジュニア・ウェルタ一級チャンピオンだったマシー・キャラハン。相手役には「ブルーハワイ」で共演したジョーン・ブラックマンと「荒野の七人」「大脱走」で売り出す前のチャールズ・ブロンソンがコーチ役で出演している。

ドラマをしっかり組み立てるために、挿入歌は6曲と少なめ。映画的にはこの程度が最適かと思うが、歌が聴きたい火には物足りないかも。なにしろ、MTVのない時代ですから。

ビートの効きまくりのテーマ曲<広い世界のチャンピオン/King Of The Whole Wide World >をハンバーガーとすれば、< This Is Living /これが暮らしだ>< Riding The Rainbow/虹に乗って>など、明るいポップスの佳作揃いの挿入歌はポテトとドリンクって感じかな。なかでも<Home Is Where The Heart Is /愛が住み家>は絶品。こういう歌がさりげなく登場する世の中は幸福だ。

「海を見下ろすような丘の屋敷なんかいらない、キミのいるところが住み家」と真摯な歌声のなかに漂うなんとも温かみのある声。
ビターなチョコレート味のR&B調とはまた違う、エルヴィスの独壇場とも言えるバニラ風味のバラードの調理が冴えに冴えてたまらない。お代りお願~い。

さらに「四つ葉のクローバーなんか見たこともなかった、幸せなんか縁がないと思っていたけれど、今は違う、僕はキミを見つけたんだ」と幸せな感情をミディアムテンポに乗せたツイスト・ナンバー< I Got Lucky /アイ・ガット・ラッキー>はサクサクとバターも効いたうさぎの絵模様のクッキーのようでこれには大満足!
後年、古い曲を集めた廉価版とは言えどアルバムタイトルにしたのも頷ける。幸せが空気に乗って運ばれてくるが目に浮かぶ。